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『つっこむ役がいないと行くところまでいっちゃうもんだ』
殺風景な畳六畳の和室。真ん中に頓挫する炬燵を男三人は囲んでいた。
表情はいつになく真剣、単位のことを考えるときだってこんなには悩まない。
ロックンローラー会長は缶コーヒーの上蓋を缶きりで開けている。
髪にツイストを当てて耳にやたらとでかい輪っかを垂らした、一見ヤンキー風の男が割り箸を割っている風景は余りにシュール。
そして彼の割った割り箸に僕は数字を書き込んでいる。
一から五まで書き込み、そして最後に王冠を書いてすべての戦闘準備が終了した。
「出来た・・・・・・」
思わず声が漏れた。大した仕事をしたわけではない。しかし来るべき聖戦の準備を終えた感慨と聖戦への期待はこの時最高潮に達する。
「―――ロケンロー!」
会長が興奮のあまり親指を立てる。
「ファッキュー!」
二人で親指を立てて返す。もはやテンションが良く分からない。言ってる言葉はパンキッシュでも僕らの表情はラブアンドピース。
「さて、そこに持っていくまでの作戦やけど・・・・・・」
さて表情を引き締めて作戦会議に入る。
時刻は午後六時を指している。さて、どうしたものやら。合コンの待ち合わせは午後七時。会長は作戦会議が必要だと一時間前に僕の家に集合したわけだ。
「とりあえずこれは押入れに入れておいて、だ」
「どのタイミングで取り出すか、やな」
僕は答える。
「会長、なんかいい案ないんですか?」
ツイストの彼、啓太は問う。
「ちょっと待て、今宇宙人からの交信が・・・・・・」
会長が突然電波系のイタい子になった。
「ああ、押入れを調べろって宇宙からの声が聞こえた」
そういって会長は立ち上がり押入れの神器、もとい先ほどの空き缶に手を伸ばす。
「そうそう、コーヒーが飲みたかったんだ、ってあれ?割り箸が刺さってる!?」
行くのか?まさかそれで行くのか?僕らは手に汗を握り次の展開を待つ。会長は割り箸を一本抜き出して。
「あれ、何か数字が書いてある」
「もうこれはアレしかないっしょ!!」
啓太もノリノリである。
「ま、待て。また宇宙からの交信が・・・・・・」
会長は顔をしかめて、眉に指を乗せる。
そして、喉に手を当てて。
「オオサマゲームヲスルトタノシイヨ」
「後はもう酔いの勢いしかないっしょ!!」
僕も頭のネジが全外れだ。
三人はコブシを天に掲げて交差させた。我らが生涯に一遍の悔い無し。生まれたときは違えども死ぬ時は同じとき、同じ場所を誓う。
これが世に名高い、頭の悪い大学生の『頭の中が桃園の誓い』だ。
BGMはヘヴィメタル。ツインペダルのドコドコ鳴っているのが遠い世界の出来事のようだ。
「ウィー!」会長が再び吼える。
「ムッシュ!」僕らが答える。
「作戦確認」と会長。
「まずは乾杯」と啓太。
「軽く自己紹介」と僕。
「適当に世間話」
「きりのいいところでゲーム」
「酔わせたところで宇宙からの交信」
そして三人でハモる。
「王様ゲーム!!」
「サイン確認」会長が三度吼えて。
「いち」おもむろにみんな酒のグラスを持ち始める。
「に」おもむろにみんな頬杖をつき始める。頬に当てた指はまさしく二本。
「さん」おもむろにみんな手を後ろについてダランとなる。
「よん」おもむろにみんな片膝を立てて抱きかかえる。イッツトレンディ。
「ご」そして煙草を吸う。
「完璧だ」会長は光悦の表情を浮かべた。
今、世界は僕ら三人のものとなった。
時刻は七時前。三人は意気揚々と車に乗り込む。
行き先はこの近辺の大学生の集まり場所のスーパーマーケット。
いざ、出陣。
このテンションは、相手の顔を見るまでは高かったのだ。
ちくしょう。