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僕は笑っている。
上司に媚びて笑う。
ぺらぺらの笑いだ。
心の伴わない笑いだ。
これが社会の潤滑油。
なんだろうか。
何かが僕を急かす。
この焦燥感は、なんなのだろうか。
いくじなしの笑いだ、と。
少年が指差す。
つまらない子供の僕が指差す。
子供の目には、今の自分の姿は情けない大人に見えるのだろう。
権力に属さないヒロイックな大人。
それは、アイドルという虚構のような物だ。
考えちゃいけない。
非現実を現実にしようだなんて。
そんな大それたこと、考えちゃいけない。
でも、君はそんな大人に本気でなろうと憧れていたんだ――。
昔の僕は、本気でそんなことを――。
その日は、ぼんやりと考えていた。
時間が過ぎるのが早いようで、やけに緩慢だ。
「もう、こんな時間か・・・・・・」
壁の時計はすでに午後八時を指す。
周りを見渡してみる。
いつの間にか、多くの社員がすでに退勤した後だった。
パソコンのキーボードを打つカタカタという音がやけに鮮明に響いている。
昼間人で溢れ返る社内を見ていると、どこか寂しい印象を受ける。
でも、なぜかほっとする。
寂しいのに、どうしてほっとするんだろう。
僕はひとりぼっちの子供なんかじゃない。
彼女がいる。
社内の人間関係は良好だ。
見本のような人生じゃないか。
考えてみても、僕をほっとさせる理由は分からなかった。
そろそろ帰ろうと考えたとき、ポケットの携帯電話が振動した。
誰だろう。
と言っても大体の想像はつく。
メール未読一件の文字。
差出人は彼女。
「仕事終わった? 今日はウチ来るの?」
簡潔な文章は珍しい。
彼女は絵文字や顔文字をよく使う。
それだけでただの文章が飛んだり刎ねたり、泣いたり怒ったり。
文章の表現方法も随分と広がったと思う。
でも、僕は絵文字や顔文字を使わない。
彼女からはよく怒られる。淡々としすぎだって。
でも、僕はそれを直す気もない。
「今から帰る。今日は止めておく」
「りょーかい」
終了。
特に用事があるわけでもない。
ただ彼女と会うと、もっと急かされるような気がした。
H20.8.25
大人子供の3つめ作りました
H20.8.21
というわけで凄い久しぶりに更新しました。
つまり壮大な物語とか書こうとするか無理なんだと。
もっと思いついたままにつまらないことでも書き続ける方が性にあっていると。
というわけでしばらく「空の端」っていうのは端に置いておいて、
新しいのを書くことにしました。
というわけで
「大人と子供」
①と② 更新しました。
「そう、来月の頭に」
会社の先輩が休憩時間にそう言った。
「結婚適齢期ってやつですかね?」
ぼんやりと、そんなことを尋ねてみる。
「適齢期かぁ」
「社会人四年目になると、なんか周りが急に結婚って慌しくなる気がするんです。大学のときの友達とか、職場とかでも。そういうの見ているとなんか、結婚しないといけないのかなぁとか、つい考えてしまうんですよね」
「確かに、なんか「しないといけない」っていう感覚もたしかにあるんだよね・・・・・・」
先輩は缶コーヒーを傾けながら、少し遠くを見る目だった。
「結婚って、どんな感じですか?」
「そうだね・・・・・・なんか不安だよ」
「不安ですか?」
「金がない、って苦労している同期のヤツとかいっぱい見てきたからね。うちの会社の給料で家族を養っていくとか、そう考えるとブルーになるよ」
「一人暮らしには分からないですね」
「そうだね、一人暮らしはいいよ。お金に困ることがない。湯水とまではいかなくとも稼いだお金全てを自分の為に使えるからね。独身貴族とはよく言ったものだよ」
「羨ましいですか?」
「羨ましいね」
そう言って僕と先輩は笑いあった。
「僕には今まで以上に先輩が立派に見えますよ」
「そうかい? 自分じゃ良く分からないな」
「尊敬しますよ」
「どこが尊敬できるのかよくわからないけど照れるね」
「結婚、しなくちゃいけないのかなぁ・・・・・・」
ぽつりと呟く。
「いや、結婚なんてするもんじゃないよ」
先輩は笑う。
「・・・・・・」
「どうしたんだい?」
「結婚した人って、みんなそう言いますよね」
「うーん・・・・・・、そうかもしれない」
「しなくちゃいけない、ってどうして思ってしまうんでしょうね」
「確かにね」
「親も、先輩も、同期も、後輩も、友達も、口にはしないけど、そうしなければいけないって、まるで強迫観念みたいです」
世の中には、しなければならないレールが引かれている。
時々そう思う。
「大学に行かなければならない、就職しなければならない、結婚しなければならない・・・・・・」
レールの上の人生。
「世の中は、しなくちゃいけないことだらけです」
「どうして、かぁ・・・・・・理由なんて考えたこともなかった。そろそろかって、どちらともなく、でも、僕も彼女も結婚して当たり前って意識があったんだろうね」
「日本のスタンダードです」
そして、レールを脱線すれば、人生の落伍者。
「結婚して、本人は不安なのに、周りはおめでとうと言う。確かに複雑な気分かもしれない」
「何が芽出度いと思います?」
「恋人のゴールは結婚にあるから?」
「じゃあ、その先に道はないですね」
「ゴールしちゃったからなぁ・・・・・・」
ひいき目に見ても、多分本当につまらない子供だ。
そんなつまらない子供が、つまらなそうに僕を見つめる。
今の僕は、そんなにつまらない人間だろうか?
誰かに問いたくなる。
僕は言ってくれない。
つまらない子供の僕は、僕を軽蔑するばかりだ。
(なんだよ――)
僕は心の中で舌打ちをする。
(君だって・・・・・・、君に出来るのはテストでいい点をとるだけじゃないか)
毒づいてみるけど、彼は僕から目を反らさない。
『自分だって――』
口を開く。
『自分を良く見てもらうことで、頭が一杯じゃないか』
似たような言葉を返される。
(子供の君には分からないよ)
大人の口癖だ。
自分で言っておきながら、ベタ過ぎて辟易とする。
(良く見られなければ、人から嫌われる。人から嫌われることがどんなにつらいか、君には分からないんだ)
『テストでいい点をとれば嫌われない』
(そうだよ、君だって分かっているじゃないか。それは仕方のないことなんだ)
『仕方のないこと――!』
声を荒げて僕の言葉を復唱する。
なんだよ。
その通りだろ?
だって、しかたのないこと・・・・・・・。
しかたのないって・・・・・・・なにが?
空しくなった。
『そうだね、仕方ないことだ!』
泣きそうな顔で僕は怒る。
僕に向かって怒る。
『大人たちは理解してくれなかった! 僕は見て欲しかったのに! 一生懸命作った砂のお城を見て欲しかったのに、「すごいね」って褒めて欲しかったのに! でも、お父さんもお母さんも、けしてそんなことを褒めてくれなかった。それどころか、服を汚したことを怒られた! そんなことよりも宿題は終わったのかって。そればっかりだ』
我が儘だ。
僕はそんな我が儘を、泣きそうな顔で言う。
『僕はテストで良い点を取るしかなかった。仕方ないこと!』
でも。
君はこうも思うんだろう?
『僕は、そんなことを褒められたって嬉しくなかったのに――』
(僕は、そんなことを褒められたって嬉しくなかったのに――)
声が重なる。
(だからこそ、僕はひとりぼっちだった――)
そして。
目が覚めた。
気だるさが酷い。
この感覚は本当に独特だ。
寝ている間に大量の血を流したんじゃないかって思う。
毎晩僕の血を吸血鬼が吸いにきてるって。
止めよう。
なんか、この歳にイタい発言だ。
でも吸血鬼がもし可愛い女の子だったら。
(血を吸いたいなら吸わせてあげよう。じゃあおじさんのを咥えてごらん?)
・・・・・・。
このネタは40歳を過ぎるまでとっておこう。
「・・・・・・」
「そんな目で見るなよ――!」
そんな目で見ないで頂ければ幸いである。
彼女は言った。
ぼんやりと仰向けで天井を見上げながら考えてみる。
「何となく覚えてる・・・・・・かな」
「たまに子供の頃に戻りたいって思わない?」
「どうして?」
「だって、今みたいに必死にやりたくない仕事をして、頭下げたくない相手に頭下げて、そういうのって疲れない?」
「現実逃避」
「違いない」
彼女はクスクスと笑って、僕の胸板に指を這わせる。
それが妙にむづがゆくて心地いい。
「子供の頃と比べると、やっぱり変わったのかな?」
「そりゃそう」
「どんな風に?」
「そりゃあ・・・・・・」
彼女は少し考えるフリをして――。
「色々」
適当だった。
「聞いた僕がバカだった」
「何? 自分の彼女をバカ扱いする気?」
「バカでしょ?」
そう聞くと。
「違いない」
彼女はまた笑う。
幸せだと言うだろう。きっとこの光景を見て、多くの人は幸せと言うのだろう。
でも漠然と、本当に漠然と思う。
僕は一体いつから、これを幸せと思うようになったのだろうか、と。
いけない、いけない。
幸せの定義とかしだしたら、最後は結局宇宙までいってしまう。
哲学は危険だ。答えがないから堂々巡りだ。
でも――。
子供のときは、そんな幸せを描いたこともなかった。
「やっぱり、変わったかな・・・・・・」
「何が?」
いつの間にか彼女は僕の上にうつ伏せで乗り、上目遣いで僕を見つめる。
女の子のこういう仕草って、ずるいんだよな。
色々と。
そう、男の子として。
「ん――?」
彼女は気づいた。
「そんなとこばかり大人ですか」
「これは致し方ない」
確かに、そんなところばかり成長している感は否めません。
「同時にとても自然なことでもある」
「そんなとこ立たせていってもカッコよくない・・・・・・」
少し不満げな彼女。
でも、優しく髪を撫でてあげればご機嫌になる。
単純だか、難しいのか、女の子はよく分からない。
「・・・・・・そんなんじゃ、ごまかされん」
と言いつつふやけた顔。
誤魔化されてる、誤魔化されてる。
猫か、と突っ込みたくなる。
猫は僕の上で丸くなっている。
僕は炬燵の代わりじゃないぞ。
そう思いながら、僕もふやけた顔になる。
『幸せ、かい?』
そう。
そんなふとした瞬間に、魔が差すように彼は尋ねる。
(幸せ、だよ)
僕は答える。嘘ではない。
『でもときどき、どうしようもなくむなしくなる』
(否定はしない――)
『でもきみは、それがなぜかはかんがえない』
(・・・・・・)
いつの間にか、僕の上で彼女は寝息を立てていた。
少し重い、なんて口が裂けても言えない。
そのあたり女の子はとてもデリケートだ。
寝よう。
僕は目を閉じる。
眠気は一向に訪れない。
それが少しだけ、僕を不安にさせた。